
前回のブログでアップさせていただきました「学歴(その1)」では、世の中で口にされるところの「学歴」、すなわち「ヨコの学歴」について紹介させていただきました。これは日本で重視されているものですが、一方アメリカなどでは「タテの学歴」というものを重視する傾向にあります。今回は、「学歴について(その2)」として、「タテの学歴」について少し紹介してみたいと思います。
「タテの学歴」とは?
一般的に耳にする「学歴」は「ヨコの学歴」といわれるもので、大学4年間をどこの大学で過ごすのかを基準とした学歴です。「学校歴」とも言われます。この「ヨコの学歴」は日本で一般的なものですが、アメリカなどでは「ヨコの学歴」よりも「タテの学歴」を重要視する傾向にあります。「タテの学歴」とは、最終学歴が大卒の学士ではなく、さらに上位機関として存在する大学院に進学・修了して修士号や博士号を取得した経歴を指します。
「ヨコの学歴」を取得するのに4年必要です。一方で「タテの学歴」となると大学院への進学が必要となり、修士で2年、博士でさらに3年が必要となります。当然のことながらその分の学費がかさみますので、デメリットとして真っ先に挙げられます。正直言って安い投資ではありませんので、お勧めできるとは断言できません。それでは「タテの学歴」にそれに見合うだけのメリットがあるか、必要性があるのか、まずは私の体験談などを紹介させていただきます。
個人的体験談
前職では医療用医薬品の研究開発を行っていました。私が博士号を取得したのが2002年ですから、今から20年ほど前ではありますが、当時は博士号を持たない社員が国外に出張することはままなりませんでした。社の方針だったと記憶していますが、海外でビジネスをするには最低でも博士号が必要との考えに基づくものでした。このような考えがあってなのか、博士号を取得してからは海外出張の機会が著しく増え、最終的には社でも珍しいことに2度の海外駐在をさせてもらいました。
これはアメリカ出張での出来事です。アメリカの空港に着くとすかさず入国審査があります。その際に、
審査官: 「何の仕事をしているのか?」
私: 「医薬品会社に勤めている」
審査官: 「入国はビジネス目的か?」
私: 「ビジネスだ」
審査官: 「サンプルを持ち込んでいないか?」「違法薬物を持っていないか?」などなど
医薬品会社に勤めていたために、このようなやり取りをすることが頻繁にありました。当時、私は修士号を持っていましたが、名刺を見せるなどして社名・役職などを説明しても効果なく、最悪のケースは荷物検査をされました。
博士号を取得後初の出張でも、いつものように同じシチュエーションに出くわしました。このときたまたまパスポートケースに博士号を取得してから新調した名刺が入っていました。それも自分の名前の後ろに博士号の称号を示す “Ph.D.” の入った名刺です。それを目にした審査官は何も尋ねることなしに入国を許可してくれました。いつもの辟易とする質問の嵐とは大違いでした。それからは、ちょっとした質問はあるものの、雑談交じりのことも多く、先のような質問の嵐は全くなくなりました。現地のアメリカ人の同僚にこの話をしたところ、「アメリカ人は博士号取得者のような自己投資をしている者に対して尊敬の念を抱いていて、色々なところで優遇する。だから我々は躍起になって博士号を取得するんだ。」と言われました。
他にもこんなことが…
一度目の駐在は研究者として渡米しました。このとき一緒に赴任した同僚は修士号を、私は博士号を持っていました。現地に行って驚いたことに、私には一人用のオフィスが、同僚は広い空間にキュービクルと言われる4人のデスクが寄せ集められた島があてがわれました。同僚と、「こうも違うのか」と驚いた次第です(当然、同僚は帰国後に博士号を取得しました)。私が所属した研究施設には研究チームが10ほどありましたが、各チームのリーダー全員が博士号を持っていました。当然それ以上の役職者も全員が 博士号もしくはメディカルドクター(M.D.:医者の称号)を持っていました。つまりマネジメント層は基本的にこのような称号を持っているのが当たり前でした。
これは二度目の駐在の話です。海外メーカーとのビジネス交渉の場でのことです。お決まりの名刺交換をしながらの挨拶の後にテーブルにつきました。私の正面に座っていた相手方の博士号を持つメンバーが机の上に我々の名刺を並べていました。よく見ると、彼の目に入るところには博士号とメディカルドクターを持つこちらのメンバーの名刺だけが並んでいました。他のメンバーの名刺はその横に束にして積んでいました、まるで見るつもりがないかのように。
これは先日、昔の同僚から聞いた話です。アメリカから著名な教授を招いて講演会をしたそうです。その研究分野に関与している日本人メンバーが100名ほど聴衆として集まったそうです。講演会冒頭に教授から、「皆さんは博士号を持っていますか?」と尋ねられたそうです。教授は続けて「博士号を持っている人は右に、持っていない人は左に移動してください」と移動を促したそうです。すると驚くことにその教授は、博士号取得者数名だけに向かって講演会をスタートしたそうです。
グローバル社会では…
このような体験からも言えることですが、アメリカは少なくとも日本以上の学歴社会だといえるのではないかと思います。それも「ヨコの学歴」ではなく、「タテの学歴」をとても重視しているように思います。アメリカに駐在しているときの同僚にはイギリス、ルーマニア、中国、台湾、韓国、インドなどから渡米して永住権を得た人たちがいました。彼らは口をそろえて、「博士号を取得することが必須だ」と言います。逆に、「なぜ日本人は博士号を取らないのか?」と訊かれてしまうくらです。私の前職が研究開発という少し特殊な分野だったからかも知れませんが…
ただ、最近では「グローバル」「グローバル化」などの言葉をよく耳にするようになりました。大学をみても「国際」と銘打つ学部があちこちの大学で見受けられます。このような状況を受けて現在をグローバル社会と捉えるならば、「ヨコの学歴」ばかりではなく「タテの学歴」も意識する必要がこれまで以上にあるのかも知れません。特に外国人と対等な立場で物事を進めようとするのであればなおさらかも知れません。
次回に続く
さて、話にまとまりがなくなりそうですので、今回はこの辺りとさせていただきたいと思います。次回は、「タテの学歴」についてもう少し踏み込んだ話をご紹介できればと思っています。