
これまで本ブログでは「読解力」を重要な位置づけとして取り上げてきました。そのような中、今月『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』で有名な新井紀子先生が新刊を出されました。タイトルは『シン読解力 学力と人生を決めるもうひとつの読み方』。「シン読解力」が学力や人生を左右するというショッキングなものです。早速購入して拝読しました。
新井先生は人工知能(AI)プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」を主導されてきました。プロジェクトで開発されたAI(通称「東ロボ」)に日本語を学習させるために試行錯誤したノウハウを応用して「リーディングスキルテスト(RST)」を開発し、日本人の「読解力」について大がかりな調査と分析を実施されてきました。『シン読解力』はその結果の一部をまとめたもののようです。非常に考えさせられましたし、大変納得のいく研究結果でした。
RSTとは? シン読解力とは?
このRSTは「知識や情報を伝達する目的で書かれた自己完結的な文章」を「自力で読み解ける力」を測定するテストと紹介されています。要するに「教科書を読む力」を測るテストです。また、このRSTで測定される力を「シン読解力」と定義されています。
RSTテストの例題が以下のURLには「設問の特徴と例題」が紹介されています。
書籍内で説明されている内容を引用しながらもう少し説明すると…
日本語には「生活言語」と「学習言語」が存在します。私たちは普段、「生活言語」を使って日常を過ごしています。小説などの物語なども「生活言語」で書かれています。しかし、教科書に使われているのは「生活言語」ではなく「学習言語」です。社会に出て目にするビジネス文書や公的な文書も「生活言語」ではなく「学習言語」で書かれています。つまり「シン読解力」は「学習言語」を理解する力です。
シン読解力と学校偏差値が強い相関
詳細は実際に新刊を読んでいただくとして、取り上げたいポイントに絞ってご紹介したいと思います。以下のURLにある動画には書籍にも紹介されています研究結果の一部が紹介されています。
リーディングスキルテストとは何か ~ 基礎的読解力は人生を左右する 〜
大変ショッキングな内容として、シン読解力と学校(高校)偏差値が強い相関を示した、ということです。つまり、中学校には教科書が読める・読めないと様々な学生がいますが、その中でも教科書が読める学生が偏差値の高い学校に進学しているということになります。動画でも提示されていますが、
教科書が「読めるか、読めないか」 基礎的読解力が人生を左右する
ということになるかと思います。
また、新井先生は2024年に開催された日本教育学会第83回大会にて以下のような6項目の仮説が提唱されています。
1.RST が測る「基本的な読み」は十代半ばまでに自己流の読みが固定化し、それ以降(自然には)改善されない。
2.上記の結果、分散が極めて大きく、それに起因した学力差が生じる。
3.シン読解力は、読む内容への興味関心や教科の得意不得意に左右されない。
4.シン読解力は、読書量(特に物語)に左右されない。
5.シン読解力は、適切なトレーニングにより大人になっても改善する。
6.シン読解力は、中学卒業以降の、高等教育を得る機会や生涯賃等をも左右する。
読解力の重要性
『シン読解力』を通じて、私が日頃から学生を指導しながら気になっていた読解力はまさに「シン読解力」、つまり「学習言語」を理解する力だったということを改めて思い知らされました。
「シン読解力」とは切り口が違いますが、私は「論理的思考力」と「読解力」に注目してきました。
前職では立場上、報告書やメールのチェックをよくしていましたが、要点の理解できないものを提出してくる部下や同僚が少なからずいました。しかも彼らの多くはデータの分析にも長けておらず、論理的に考えることを苦手としていました。一方、修士号や博士号を持ち、かつ学術論文の投稿経験のある人たちはまったくの正反対。
学術論文では自分たちの研究成果を公表することになります。自分たちの考えや主張を論理的に説明することが求められます。そのためには文章の構成や整合性をチェックしながら進める必要があります。当然、そのもととなるデータの理解・分析がしっかりとできないといけません。学術論文を書くことは、論理的に考えることや読解力が必須となります。しかし彼らは元々このような素養があったわけではありません。彼らのほとんどが、大学院時代に鍛えられた、とよく言っていました。つまり、鍛えることで身につくものだと思います。
読解力を身に着けましょう
「読解力」は大人になっても身に着けられます。しかし、学生時代に不利益を被らないためにも、できるだけ早い時期(小学生や中学生)から身に着けることをお勧めします。
「お知らせ」にアップしましたが、当塾では、小5生、小6生を対象とした「読解力強化コース」を4月から新設します。興味ある方はご検討いただけますと幸いです。