
「ライフシフト」という言葉をご存じでしょうか。「人生100年時代」の到来により、「教育→仕事→引退」という従来のモデルは終焉を迎え、学び直し、起業、転職、休業など、人生のステージを楽しみながら柔軟に移行していく生き方を提唱したものです。
提唱者であるイギリスの組織論学者リンダグラットン氏の著書である『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)を読み、内容のインパクトの大きさに衝撃を受けました。その後、彼女が来日した際の公演を拝聴する機会に恵まれ、彼女の提唱する考えに大変共感・納得いたしました。しかし一方で大人、ましてや我々のような退職間近の世代よりもこれからを担う若い世代、特に人生100年時代の主人公である中学生・高校生・大学生にこそ聴いてもらいたい内容だと感じたのを今でも鮮明に覚えています。
2023年に待望の『16歳からのライフシフト』(東洋経済新報社)が刊行され、若い世代にもこの考え方が浸透するきっかけとなりました。高校生くらいの学生をターゲットとしているだけに、その内容は先の大人向けのものと比べるととても分かりやすいものとなっています。当塾を卒業した大学生に紹介したことがありますが、「知れてよかった」「参考になった」とのフィードバックをいただきました。「ライフシフト」に興味のある方には是非とも読んでいただきたい一冊です。

「ライフシフト」に関する書籍を読んでみると、「大学卒業後」を前提として話が展開されています。元々社会人向けの書籍ですので、この前提は当然と言えば当然です。しかし対象者を中学生・高校生・大学生とした場合には少し違った捉え方ができるのではないかと思います。今回はこの点について少し掘り下げ、私見を述べてみたいと思います。
専門性のメリット
日本での就職は新卒一括採用が主流です。一方、アメリカでは随時採用が主流です。随時採用のメリットの一つに専門性のマッチングがあります。大学・大学院で学んできた専門性を企業で活かすことができます。現にアメリカ駐在時、現地の仲間の多くは大学・大学院での学びを活かした専門領域の職に就いていました。企業ですので自身の専門性と違うことに挑戦しないといけないケースもありましたが、専門性を持っているからこそ、その専門的知識や経験を活用しながら柔軟に対応していました。
個人的には専門性を持つことはとても重要だと考えています。専門性を持っていると一般的にはその専門性に固執しがちのように思いますが、専門性の限界を知っているので、できることとできないことをよく理解しています。そのため、他の専門性に対しても真摯にかつ柔軟に対応する人が多いように感じています。私自身も経験がありますが、異なる専門性や分野の掛け合わせによって、自身の発想や思考に大きな変化をもたらす可能性がとても高いと思います。このような発想や思考の転換が斬新なアイディアやイノベーションにつながってくるのではないかと思います。このように身につけた専門性はその人を支える柱となるのではないかと考えています。
日本でも時代の変化により、大企業を中心として随時採用を導入する企業が少しずつ増えてきているようですが、浸透するにはまだまだ時間がかかりそうなのが残念なところです。
「大学・大学院での学び」で専門性を
個人的な経験から、就職して配属された新天地で専門性を身につけようとすると最低でも3~5年はかかります。10年かかるとの話も耳にします。「タテの学歴」について記載した際に少し述べましたが、大学は研究機関です。大学での学びを活かすことで専門性を得ることができます。実際、ある分野での専門家を志す社会人が学び直しの場として大学や大学院を選択することは珍しくありません。つまり、大学進学を目指す学生や既に大学に進学している学生は、大学や大学院でしっかりと学び、専門性を獲得してから社会に巣立って行ってもよいのではないかと思います。就職した時点でひとつ専門性を持っている状態となりますので、タイパ・コスパのよい自己投資ではないでしょうか。
学歴について(その2)「タテの学歴」 個人的体験から 豊明×塾×中学生×高校生 – Learning Base AWAKE | Learning Base AWAKE
学歴について(その3)「タテの学歴」研究活動 豊明×塾×高校生×中学生 – Learning Base AWAKE | Learning Base AWAKE
リカレント教育(学び直し)
従来モデルでは「教育」⇒「仕事」へのステージ移行がある意味一方通行となっています。しかし「ライフシフト」では「教育」⇔「仕事」を繰り返しながらキャリアを形成していくことを推奨しています。リカレント教育(学び直し)はこのようなキャリア形成に有用であると脚光を浴びるようになり、耳にされた方も多いのではないでしょうか。
私自身はアメリカに駐在しているときに、一部の仲間から「○○のポジションを得るためにMBAを取得する」「○○を学ぶために大学院に通うことを考えている」「○○を学ぶために会社に交渉している」などの話を耳にすることがよくありました。今から二十年近く前の話ですが、アメリカではリカレント教育がとても浸透していたとの印象を持っています。しかし先にも述べたようにアメリカの仲間は専門性を持った者ばかりでしたので、リカレント教育に対する考え方も日本人と少し違うと思います。特にキャリアを如何に獲得・形成するのか、彼らには大きな問題です。キャリア=給料の側面もありますので、なおさらだと思います。
私の在職期間中にリカレント教育を仲間や部下に推奨しましたが、残念なことになかなか浸透しませんでした。日々の忙しさもあるでしょうし、まだまだリカレント教育に対する認知度や理解度が高くなかったことも要因だったのではないかと思います。しかし今振り返ってみると、大学院で確固たる専門性を有した者は新しいことに柔軟に取り組みながら着々とキャリアを積み、最終的には昇進したり、希望の部署に移動していきました。リカレント教育を受ける受け手としての我々自身の問題なのかもしれません。専門性を持っているか否かがその突破口になるのであれば、大学・大学院での学びを考え直してもよいのかも知れません。
最後に
私自身の経験に基づく内容ばかりですので、事の真偽がどこまで確かは分かりません。しかし大学や大学院での学びを活かした専門性が自身を支える柱となって、その後のキャリア形成によい影響を及ぼすことがあることは事実です。せっかく大学や大学院に進学するのであれば、皆さんにとって大きなチャンスです。専門性を獲得して、よいキャリア形成に役立てていただけることを願っています。